「トータルで12万3500カマね」


微笑む。目の前の下卑た男の顔が固まった。
「は? え…っ? 一晩5000カマじゃ…?」
「一晩過ごす時間の対価はね」
キスで1万カマ、前戯で上半身触らせるの5000カマ、下半身触らせるの7000カマ、指を挿入するの1万カマ。
手で抜くのが4000カマでそれが2回、ナマで挿入が1万カマ。
中に出すのが3万カマ。事後処理と称して舐めるのが2万カマ。
腰を振るのが6000カマ、その他淫語が一言500カマでそれが43回。
合計で12万3500カマ。計算間違いはなし。
「っざっけんじゃねぇぞ!!」
わぁ、キレた。振り上げられた拳をトゲのおまじないで返して避ける。
「痙攣の、」
おまじない。紡いだ紋様は客を拘束する。
変な体勢で固まった彼の懐をまさぐる。財布ゲット。
「ばいばーい」
「待ておいコラぁあああああ!!!!」


「…ってことくらいかなぁ、最近あったトラブルって」
ま、日常茶飯事なんだけどね。
マスカットのタルトをかじる。美味しい。甘い。ヴェステルに買っていこうかな。
「まじやばいじゃん。え、ちゃんと逃げられてんの?」
「もちろん」
行動を阻害するおまじないは完璧。たまに失敗するけどね。
そこで揉めあいになると、ボクはすかさずヴェステルにメッセージを飛ばす。
そうすると大好きな喧嘩のにおいを嗅ぎつけたヴェステルがやってくる。
身長190センチカマメートルの体躯に勝つことは難しい。簡単に捻られて財布はボクの手に。
「うっわぁー、ひっでー」
けたけたと笑うウォンツに合わせて笑う。
「仕事は? なんかやばいこととか起きてない?」
「そっちは大丈夫かな。サポートが充実してるからさ」
街頭で適当に引っ掛けてぼったくる時と、ヴェステルの実家のハニートラップ要員の時と。
前者を商売と呼んで、後者を仕事と呼ぶようになったのはいつのことだろう。
「っていうかさ、禁則事項に触れるんだから言えるわけないよ」
「あ、やっぱりー?」
今お仕事で相手してる貴族のあんなことやこんなこととか。
成金ペドフィリアの屋敷の地下にあるらしい歪んだ楽園の話とか。
物心つく前のこどもを拉致誘拐して囲ってるらしいとか。
その地下室の存在を吐かせるのが今のお仕事だとか。言えない。
「そうそうー。先週渡したやつどうだった?」
使った? と聞いてくるウォンツの顔はバッカニア商会の回し者の顔。
「あぁうん、けっこうよかったよー」
さっきの件とは別のお仕事でお付き合いしてるエリート貴族様のとこで使ったんだけどさ、普段よりチップをはずんでもらっちゃった。
「ただ動きがちょっと単調かな。中がどうなってるかは知らないけど、もうちょっとランダムっぽさが欲しいかも」
備え付けられたイボの出入りのパターンとか振動の強弱とか。
一定の規則があることに気付いたのは使って10分経った時のこと。
規則づいた振動に慣れちゃって物足りなかった。
「あー…やっぱり?」
正直に感想を言うと、やっぱりそうだよなぁ、とウォンツが口をとがらせた。予想してたみたい。
「ランダムなぁ……もういっそのこと、人肌に温まるとかそういう……」
「やめてよ」
七色に光るとかわけのわかんないことを口走ってるのは本気なのか冗談なのか。
「あ、でも一緒に渡されたローションはよかったよ」
ぬるぬるの具合が良くて、変態ペドフィリアの興奮具合がすごかった。ボクは内心どん引きだったけど。
家に帰ったあと、残りをヴェステル相手に使ったけど、その時もまぁそこそこ。
「まぁそんなのなくてもボクはくわえこめるんだけどね」
「さすがー」
その辺はヴェステルが強引なのが悪い。喧嘩した後、戦闘の後、血の狂気に浸れば浸るほど彼は野生的になる。
慣らしもせずその場で、なんてことも多々。おかげでどんなモノでもすぐに順応できるような身体になってしまった。
後で甘やかしてくれるから、いいんだけどね。言うこと一つ聞いてやるって言うからケーキをお預けにしたり。
「っつーかこの店、まじ美味くね?」
「でしょ? ヴェステルのお勧めだよ」
こういう恥じらいもない話を堂々と繰り広げつつ、美味しいお菓子が食べられるところはないか。
訊ねてみたところ返ってきた答えがここだ。ボクの希望通りの条件が揃っている。
表通りの店よりちょっと割高なのは、我慢するってことで。
「ヴェスの彼氏、ほんと甘いもん好きだよなー」
他愛もない会話をしつつ時計を見る。時刻はもうそろそろ別れを告げている。
「あ、時間大丈夫?」
「オレも食ってみてーわ、その義妹のロールケーキ。って、やべっ、もうこんな時間かよ!」
この後予定があるらしいウォンツは慌てて立ち上がる。
どんぶり勘定で出したカマをテーブルに。足りなかったり多かったりした分は来週、と言い残して急いだ風情で走る。
伝票と見比べる。20カマ足りない。ま、いっか。
さて、ボクも帰ろう。もちろん、マスカットのタルトを持ち帰り品として注文するのも忘れずにね。
「すいませーん、お会計おねがいしますー」