それはとある依頼人の屋敷に泊まった夜の事。
ぺた、ぺた。全く気配を消していない足音にラグナは目を覚ました。
「…んあ…?」
誰だよこんな夜によ…と欠伸しながらも手は無意識にホルスターへ伸びる。
人数分割り当てられた客間の、豪奢なドアがノックもなくきぃと開いた。やべ、鍵忘れてた。
隙間からぴょこんと揺れたのは青いアホ毛。
間もなくよく見慣れた顔が、おずおずと出てきた。
「らぐなぁー…。」
「んだよウトかよ…何か用か?」
「ねれないー…。」
「………はぁ?」
知るか、と眠いせいでぶっきらぼうに返しそうになる。ウトはそんな返事をする暇も与えず、ぺたぺたと歩み寄ってラグナのベッドにもぐりこんだ。
「わっちょっ、おいジャマだっつの!寝づれェよ!」
「らぐなぁらぐなぁ、いっしょにねよー。ねよー。」
「テメェいくつだよ!図体だけはでけーんだから邪魔でしょうがな…」
ぴた、と思わず言葉が止まった。
もぐりこんできたウトが、かたかたと小刻みに震えてるのが伝わったからだ。
「ねよー…。」
こつんとラグナの肩口に当たるウトの額。その表情は隠れている。
…何か追い払いづらい雰囲気を感じ取ったラグナは、盛大な溜息をついた。
「…起こしたら脳天ブチ抜くかんな。」
そう言い捨てて、ラグナはごろんと背を向ける。ウトがぱああと笑顔になった気配が如実にわかって、なんともやりづらそうに眉根を寄せた。

ウトはしばらく幸せそうに、その背にぺとりとくっついている。
やがて、ウトは両手を伸ばすと、しがみつくようにラグナへ抱きついた。
「痛づッ…てめふざけんなよ起こすなって」
「らぐなぁ。」
「あ?」
「らぐないるー。」
「そりゃいるけど。」
「らぐなぁ、」
しがみつく力が、少し強まった気がした。


「あしたおきたら、いるー…?」


「……ったりめーだろ…。」
今日一番の盛大な溜息をついた。呆れ返った溜息。
「この俺様がそうほいっと消えてたまるか。」

くだらねー事言ってねーで、とっとと寝ろ。



ねむれぬよるに

fin.